スキップしてメイン コンテンツに移動

!結論

言及ありがとうございます。機会があれば参加して頂きたいです。
""専門書関連の翻訳には興味があります。ご入用の際はなんなりとお申し付けください。id:ichanさんらの翻訳プロジェクトにはしびれました。
http://d.hatena.ne.jp/tny/20081127/1227774832

ですが、少し翻訳についての考えが変わってきています。どこかで書こうと思っていたので、今回の機会を活かして書いてみます。

翻訳のメリットは「深くその本の内容を勉強できる」ことと「(その分野の)英語の勉強になる」ことです。しかし、翻訳は本の内容を理解する以上の作業があります。翻訳のデメリットを挙げてみます。

これがだめなだけで、Amazonのレビューあたりでぼろくそに言われます。これは原著の価値を下げ、自分の評判も落しますので慎重にならざるをえません。そのために翻訳家向けの文章や、日本語に関して論じている本を読みました。それはそれで楽しいのですが、本の内容を理解し、研究に役に立てるという本来の目的から離れてしまいます。しかも翻訳家にならない限り、英文を自然な日本語にするというスキルは、研究者としてはあまり価値がないと思います。そもそも普段、論文を読み書きするときには日本語が介在しないのですから。(日本語について論じている本で学んだことは日本語総説やグラントプロポーザルのときには役に立つと思います。)

余談: 翻訳の苦労を知っているので、翻訳の質に文句を言っている人をみると苦笑してしまいます。研究者なんて、本の内容についてはプロでも翻訳はずぶの素人ですよ、普通は。読める日本語になっていたらラッキーぐらいに思ったほうがいいと思う。それが嫌なら原著で読もうよ。

本のレイアウト、フォント、表紙デザイン、紙質、値段、和文索引作成、訳語の統一、文体の統一、句読点の統一など考えるや行うことがたくさんあります。単に輪読会をしているだけなら発生しない作業です。これは自分で本を書くときには役に立つ知識なので一概にデメリットとは言えません。

複数のひとで翻訳プロジェクトを進行させるためには作業ペースや、翻訳の質、タスクの割り当て、編集さんとの議論などさまざまなプロマネの技術が必要になります。僕らはそのために、連絡用ML、qwikを改造したオンライン翻訳環境、訳文・原文の全文検索、タスク管理システムなどを用意しました。もちろんコアメンバーのミーティングは何度も行われましたし、締切を守らせるために様々な工夫をしました。正直に言うと、翻訳本を出すよりも、翻訳プロジェクトマネジメントについて本を書いたほうが売れそうだ、というぐらいノウハウが溜りました。これが世に出てないのがもったいない><

自分の名前で本を書くのは成果になると思います。ところが翻訳は微妙なところです。自分の名前をその分野や近隣のひとに知ってもらう効果はあります。しかし研究者はやはり論文を書いてなんぼですので、翻訳自体でポストが取れたりグラントを貰ったりはできないのです。当たり前ですが。

以上のことより、翻訳するよりも学んだ内容を一度自分で消化して、自分で本(やblog)を書いたほうが良いと思います。そこで使うスキルは研究生活のどこかで役に立つものだと思います。それに翻訳よりも自分の成果と見てくれる人も増えます。しかも本質的ではない翻訳の「作業」に労力を割く必要もなくなります。

僕は、現在、研究に集中するために執筆活動は休止していますが、基本的には翻訳ではなく執筆に軸足を移そうと思っています。ただ、最後の項目を除いて、良い editor さんに出会うと問題が一気に軽くなります。よっぽど惚れこんだ本と良い editor さんの組み合わせであれば、もしかしたらやってもいいかもしれません。

逆に言うとこのあたりのことを楽しみとしてやれる人はどんどんやったらいいよ!

コメント

このブログの人気の投稿

シーケンスアダプタ配列除去ツールまとめ

FASTQ/A file からシーケンスアダプター配列やプライマー配列を除くためのプログラムをまとめてみる。 まず、配列の除去には大別して2つの方向性がある。ひとつは、アダプター配列を含む「リード」を除いてしまう方法。もうひとつは除きたい配列をリードからトリムする方法である。後者のほうが有効リードが増えるメリットが、綺麗に除ききれない場合は、ゲノムへのマップ率が下がる。 気をつける点としては、アダプター/プライマーの reverse complement を検索するかどうか。paired end の際には大事になる。クオリティでトリムできるものや、Paired-end を考慮するものなどもある。アダプター/プライマー配列の文字列を引数として直接入力するものと、multi fasta 形式で指定できるももある。 From Evernote: シーケンスアダプタ配列除去ツールまとめ TagDust http://genome.gsc.riken.jp/osc/english/software/src/nexalign-1.3.5.tgz http://bioinformatics.oxfordjournals.org/content/25/21/2839.full インストール: curl -O http://genome.gsc.riken.jp/osc/english/software/src/tagdust.tgztar zxvf tagdust.tgz cd tagdust/ make sudo make install rehash 使いかた: tagdust adapter.fasta input.fastq -fdr 0.05 -o output.clean.fastq -a output.artifactual.fastq 解説: 入出力形式は fastq/a が使える。リード全体を除く。速い。アダプター配列を fasta 形式で入力できるのが地味に便利で、これに対応しているものがなかなかない。Muth–Manber algorithm (Approximate multiple ...

ChIP-seq の Peak calling tool を集めたよ

ほかにもあったら教えてください。プログラム/プロジェクト名がツールのプロジェクトサイトへのリンク。その論文タイトルは論文へのリンクになっています。 ツール名の50音順です。 CCCT -  A signal–noise model for significance analysis of ChIP-seq with negative control , chipdiff と同じグループ CisGenome -  CisGenome: An integrated software system for analyzing ChIP-chip and ChIP-seq data . ChromSig -  ChromaSig: a probabilistic approach to finding common chromatin signatures in the human genome. ChIPDiff -  An HMM approach to genome-wide identification of differential histone modification sites from ChIP-seq data ChIP-Seq Analysis Server FindPeaks -  FindPeaks 3.1: a tool for identifying areas of enrichment from massively parallel short-read sequencing technology. Version 4.0 is out. GLITR -  Extracting transcription factor targets from ChIP-Seq data HPeak -  HPeak: an HMM-based algorithm for defining read-enriched regions in ChIP-Seq data MACS -  Model-based Analysis of ChIP-Seq (MACS). PeakSeq -  PeakSeq enables systematic scoring of ChIP-seq experimen...

ふりかえり

2013年4月に独立して7年目が終わろうとしている。ざっくりこれまでの研究を振り返る。 2013年から2017年の4年はフルスタックのゲノム科学、ゲノムインフォのラボを立ち上げることに集中していた。しかも人様が作った技術のユーザとして研究するのではなく、新しい技術を開発できるラボを目指した。ウェットの開発については、ドライのPIであっても本物を創りたいと考えたので世界最強や唯一の技術を目指した。特に1細胞ゲノム科学に注力した。そのためにまずグラントを取り仲間を集め技術を作った。幸いウェットは元同僚を中心に、ドライはドクター新卒の優秀な人材に囲まれた。並行して開発した実験やデータ解析技術を応用するため、データ生産や共同研究を支えるチームも作った。 2015年ぐらいからドライの論文が少しずつ出始め、2018年にはウェットのフラッグシップとなる技術RamDA-seqとQuartz-Seq2の2つ出版された。2021年1月現在、これらはそれぞれ世界唯一と世界最高性能の2冠である。これが達成できた大きな理由のひとつは、反応原理を徹底的に理解し制御するというチームやそのメンバーの特性にある。ここは世界最高レベルだと確信している。 2017-2018年はラボの移転がありウェットの開発や実験が大きく停滞した。その間ドライのチームががんばってくれて2019-2020年にはドライ研究の収穫の時期がきた。またRamDA-seqの試薬キット化・装置化、Quartz-Seq2とそのデータ解析技術での起業、実験試薬や道具の上市など社会実装の年でもあった。実験が少なくなった分、ウェットのメンバーの解析技術がかなり向上した時期でもある。これはウェットとドライがうまくコミュニケーションできる証拠でもある。 2019-2020年はウェット技術のフラッグシップを駆使した共同研究がいくつか花咲いた。主に「再生医療分野」への応用と「細胞ゆらぎと転写制御の謎」に迫る基礎的なテーマが対象で、もともと1細胞ゲノム科学を始めたときに目標としたものだった。 並行してゲノムデータの科学計算環境のインフラ開発に注力してきた。beowulf型PCクラスタからクラウドの移行やハイブリッド化、DevOpsによる自動構築、ワークフロー言語の導入、動的レポート生成などの導入・開発を行いこれらを日常的に使うラボになった。これらはNI...