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ふりかえり

2013年4月に独立して7年目が終わろうとしている。ざっくりこれまでの研究を振り返る。

2013年から2017年の4年はフルスタックのゲノム科学、ゲノムインフォのラボを立ち上げることに集中していた。しかも人様が作った技術のユーザとして研究するのではなく、新しい技術を開発できるラボを目指した。ウェットの開発については、ドライのPIであっても本物を創りたいと考えたので世界最強や唯一の技術を目指した。特に1細胞ゲノム科学に注力した。そのためにまずグラントを取り仲間を集め技術を作った。幸いウェットは元同僚を中心に、ドライはドクター新卒の優秀な人材に囲まれた。並行して開発した実験やデータ解析技術を応用するため、データ生産や共同研究を支えるチームも作った。

2015年ぐらいからドライの論文が少しずつ出始め、2018年にはウェットのフラッグシップとなる技術RamDA-seqとQuartz-Seq2の2つ出版された。2021年1月現在、これらはそれぞれ世界唯一と世界最高性能の2冠である。これが達成できた大きな理由のひとつは、反応原理を徹底的に理解し制御するというチームやそのメンバーの特性にある。ここは世界最高レベルだと確信している。

2017-2018年はラボの移転がありウェットの開発や実験が大きく停滞した。その間ドライのチームががんばってくれて2019-2020年にはドライ研究の収穫の時期がきた。またRamDA-seqの試薬キット化・装置化、Quartz-Seq2とそのデータ解析技術での起業、実験試薬や道具の上市など社会実装の年でもあった。実験が少なくなった分、ウェットのメンバーの解析技術がかなり向上した時期でもある。これはウェットとドライがうまくコミュニケーションできる証拠でもある。

2019-2020年はウェット技術のフラッグシップを駆使した共同研究がいくつか花咲いた。主に「再生医療分野」への応用と「細胞ゆらぎと転写制御の謎」に迫る基礎的なテーマが対象で、もともと1細胞ゲノム科学を始めたときに目標としたものだった。

並行してゲノムデータの科学計算環境のインフラ開発に注力してきた。beowulf型PCクラスタからクラウドの移行やハイブリッド化、DevOpsによる自動構築、ワークフロー言語の導入、動的レポート生成などの導入・開発を行いこれらを日常的に使うラボになった。これらはNIIやマイクロソフトとの共同研究に繋がった。日経新聞に取り上げられたり、研究会を主催したりと、これらの啓蒙にも力を入れた。IoTやITを利用したラボ運営・実験室環境の維持・管理にも取り組んだ。これによって限られたスタッフ・予算で最大の研究パフォーマンスを発揮する方法を探ってきた。

ラボのフェーズを無理に分けるとすれば、2013-2017年ぐらいが準備・開発期、2017-2019年が開発した技術の収穫期、2019-2020年が応用期の3つに分けられそう。応用論文はまだ数報抱えているのでもう1年ぐらいは続くだろう。社会実装についても、再生医療や創薬への応用、設立した会社の次のシリーズのファンド獲得を目指す。ラボのサバイブに必須なのが、2021-2022年に次世代のフラッグシップ技術の収穫期を迎えることだ。ここが正念場。

今年は2機関3拠点体制でのラボ運営という挑戦を始めた。各メンバーが最大のパフォーマンスを発揮するために、そして、それぞれの研究のやりかたや楽しみ方の多様性を受け入れるためには必要な挑戦だ。想像以上に困難で様々な人にご迷惑をおかけしているが、たくさんの尊敬できる人々に応援してもらっている。2021年は次の10年を楽しんで戦える研究体制を整える年にしたい。そして技術の準備・開発期から収穫期への転換をなんとか達成したい。

今後も成果を挙げていくためには成果が出てきた過程の振り返りが重要だと思うし、数勘定してもあまり意味があるとは思えないがひとつの指標として挙げておく。2013年から論文が21報、和文総説(覚えているもので)25報、特許2、製品8、起業1社、PI輩出3名、助教1名、フェローシップ獲得7名、博士号学位取得2名(外研受け入れとして。見込みも含む)、企業への人材輩出5名(内定を含む。インターンで来られた方1名も含む)、スタッフの無期雇用転換4名、サバティカル受け入れ2名、学生インターン(たぶん)10名以上、招待講演(覚えているもので)は約60件 (うち国際学会11件)、メディアやPRが(把握しているものだけで)30件、外部資金の研究代表が科研費若手B, JST CREST, AMED再生NW(2課題), AMED創薬PFの5件だった。これらが多いのか少ないのかわからないが、チャンスに恵まれ、素晴らしいメンバー・共同研究者・上司・間接部門に囲まれてなんとかここまでやってこれたので感謝しつつ素直に誇ろうと思う。

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